「求め続け、創り続け、表現し続ける、死ぬまで。」—平凡な中にも、驚きや革新を含んだ作品を
(わかお・けいすけ)
昭和44年多治見市で生まれる。朝日陶芸展5回入選、自由美術展3回入選。2003年に美濃陶芸展にて、美濃陶芸大賞を受賞。
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美濃焼で知られる岐阜県多治見市の街並みを見渡す高台に位置する虎渓窯。市街の喧騒からは離れ、静かな山中を思わせる雰囲気の場所に新潟から築200年を超える古民家を移築され、陶芸体験ができる施設ならびに工房として虎渓窯があります。窯元の二代目として、作陶を続けられる若尾圭介さんに陶芸家としての歩みや作陶への思い、その魅力についてお伺いしました。
築200年の古民家を移築した工房では、虎渓窯の作品を購入することができる
現在の作風へ繋がる、立体像への基礎を叩き込まれた学び
窯元の長男として生誕した圭介さん。父であり、先代である昌宏氏からは「好きな道を行けばいい」と言われ、跡を継ぐことは全く気にも止めず大学進学を考え始めた頃、先代から跡を継ぐように言われました。
「突然手のひらを返された」と振り返る圭介さん。口論になったものの、冷静に考えると自分には親の反対を押し切ってまでやりたいことや、明確な将来像がないことに気づき自ら窯を継ぐことを決意しました。「当時、学業の成績が振るわなかった自分を父は見かねていたのでは」と笑いながら話されます。
陶芸家の第一歩として、筑波大学彫塑領域へ進学された圭介さん。塑造を徹底して追求し、大学から大学院まで在学した6年間で学んだ『ものづくり』は今の作風にも大きな影響を与えています。素材は違えど、立体物を集中して作り上げることや形を見る視覚的な訓練は、陶芸に通じるものがあったそうです。
虎渓窯での修業開始と戸惑いの日々
大学院卒業後、虎渓窯で先代と共に働き始めた圭介さん。その頃を「右も左も全く分からない状況だった」と振り返ります。
仕事としてやることは多いと感じつつも任される場面は少なく、手持ち無沙汰と感じられる日々もあったそうです。先代の「見て覚えろ」という教えに不安や不満を感じながらも、仕事を続け1〜2年ほどで作品制作ができるようになりました。
圭介さんの作品は大きさから立体物としてのインパクトに加え、
かつ色と質感による繊細なテクスチャーがより作品としての完成度を引き立てる
周囲の奨めもあり、美濃陶芸協会に所属することになり現在陳列館の入り口に飾られている作品を美濃陶芸展へ出品すると、奨励賞を受賞します。陶芸家として2〜3年のキャリアでの受賞は順調のように見えますが、圭介さんは周囲の抱く思いとは異なる思いを抱いていたそうです。その後も公募展に積極的に応募するも、入選はしても入賞には至らぬ結果から「自分の中に溜めているものが少なかったから、一生懸命アイデアを捻り出していた」と振り返ります。自分のスタイルを探し続け、迷走していたとも語ります。
自身の作風を求め、アイデアを常に追い求めていたと語る圭介さん
偶然の発見から始まった独自の作風の確立
圭介さんは伝統的な美濃焼を手掛けつつ、真似をすると如実に作品に出てしまう事から「先代がやっていることから、何かを変えなければ」という思いを常に抱いて作陶に向かい合っていたそうです。
ある日、赤土の焼締作品を父の窯に入れてもらったところ、予想外の薄緑色に焼き上がり、その仕上がりに魅了されました。この偶然の結果が、現在の圭介さんの作風確立のきっかけになりました。
赤土をさらに研究し、焼き上がりに合うよう独自の調整を行っている
「それまでは粘土に対するこだわりが他の作家さんと比べると少なかった」と感じていた圭介さんは、偶然出会った赤土の色の変化に魅了され、さらに研究を重ねていきます。冷却還元という技法で土の鉄分が化学反応を起こし、黒く仕上がる炭化焼成に取り組みました。
使用する赤土についても、より良い結果を求めると実家の窯の余り土が最良という結論に至りました。これまでは廃棄してしまっていた土を、鉄分を加えて使いやすくアレンジして作陶に用いています。
また、色の変化も追求し続けています。「作品の表面にコンプレッサーで釉薬を吹き付けその上から灰薬をかけると、薄緑に青が重なり、上薬のかかっていないところは黒く仕上がる。その色の差がおもしろい」と話し、何十年も取り組み続けているそうです。
陶芸の「不自由」さの中で見つけた「自由」
圭介さんは自身の作風を「奇をてらうものではなく普通」としつつ、「普通でとどまらない、ブレイクスルーのある作品」を目指しています。
「陶芸は材質的に不自由な部分が多い。その不自由さの中で何かを見つけ、作品を作り上げることに自由を感じる。それが陶芸だ」と圭介さんは語ります。
その穏やかな語り口調や謙遜な人柄の裏に、作陶に対する強い想いを感じました。インタビュー中の「求め続け、創り続け、表現し続ける、死ぬまで。」との言葉から、圭介さんの抱く、内に秘めた情熱を感じられました。
(2024年6月、インタビュー:志村 知夏)
Infomation[虎渓窯]
〒507-0015 岐阜県多治見市住吉町2-29
Tel:0572-22-0129 http://kokeigama.jp/
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《インタビュアー・プロフィール》大学在学中に海外旅行の楽しさを知り、社会人1年目にアメリカ語学学校留学を決意、24歳から4年間ロサンゼルスに滞在。帰国後は 英会話講師として企業・個人へ指導のほか、イベント司会などを務める。結婚を機に再度渡米、オハイオ州に2年間滞在。出産後に英会話教室を再開、現在に至る。英会話レッスンで話を聞き出したり話題を振ったりする経験が、インタビューにも生かされればと思います。